読書感想文 『兄の結婚/私のお葬式』 うどうのりこ(著)
京子は兄の恋人えみこをよく思っていなかった。その兄とえみこが結婚することになり、式の準備を兄の親友正勝が手伝うことになった。正勝は京子の初恋の人だった。京子は想いを募らせるが……(『兄の結婚』)
人生の大きな節目、結婚と葬式の短編二篇です。いずれも落ち着いた筆運びで、安心して読むことができました。『兄の結婚』は、複雑な人間関係や結婚式での騒動など結構ひねられたストーリーで、主人公京子の嫉妬と初恋と失恋のコンボを描いています。こういったお話は、普通なら読者を感動させようとしてお涙頂戴的なこってり風味のストーリー展開になりがちですが、この本は実にあっさりと進んでいきます。これはわたしの好みの感じです! 登場人物の中でも神田のオヤジがいい味を出してました。惚れるじゃないか(笑)。
もう一篇『私のお葬式』は、亡くなった母が幽霊となって自分のお葬式を客観的に見ている、というファンタジックな物語です。こちらもあっさり風味ですが、静かな中に感動がじわじわ滲み出てくる感じです。人は死ぬ間際まで反応はなくても耳は聞こえているといいます。死にゆく人に話しかける言葉は最後の最後まで届く、ということを思い出しました。このストーリーとはあまり関係ないですけど……。
この本にはまえがきがあって、この本をボトルレターになぞらえていてとてもステキでしたので紹介します。このまえがきを読んでこの本はいいな、と思いました。
ネットの大きな海に、自分の書いたモノを瓶に詰めて流す。私の知らない人がそれを拾い読んでポケットに折り畳み、そっと持ち帰ってくれるか、そのまま海に投げ返されるのか。臆病な私はちょっとだけ、拾ってくれた人のポケットに入ってくれると良いなと思いながら、思い切ってボトルを海に投げ入れてみるのです。
あなたの本はわたしのポケットに確かに入りました。ステキなお話をありがとうございました。
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