読書感想文 『尾藤シオンという女 月光と聖獣のバカラ』 川口 世文(著)

 名前『尾藤シオン』、性別『女』、職業『秘密工作員』。彼女は『野戦電話《ウォーキートーキー》』の相棒『保利恒平』とともに国交のない島国『月光』に侵入する。シリーズ3作!


 女工作員のスパイストーリー中編3つ。凝った設定をハードボイルドに仕上げている個人的に大好きなタイプの小説でした。東シナ海にある月光という島国(もちろん架空の国)の諜報機関『RIO』と日本の諜報機関『予防研』が繰り広げる諜報戦がベースになっていてスケールが大きいです。反面、設定が頭に入るまではとっつきにくい印象がありましたが、基本的に現実世界に沿っているということを理解したらスッと物語に入り込めました。中でもおもしろい設定だなと思ったのは『野戦電話《ウォーキートーキー》』。これは現地で活動する工作員(ウォーキー)の情報(視野や思考など)を基地にいるもう一人(トーキー)が脳内で共有し、作戦遂行をサポートするというテレパシー的なものです。リアルの世界ならハイテクを駆使しなければならない状況でも、この『野戦電話』があることでシンプルに物語が進んでいきます。『野戦電話』によって複雑になりがちな情報交換をわかりやすくしてくれて、読者をストーリーに集中させる効果があるんだなあ、と思いました。

 主人公 尾藤シオンは、完全無欠のスーパーウーマンではなく、感情的にもなるし失敗して窮地に追い込まれることもあるなど等身大の人間として描かれていて共感させつつハラハラドキドキさせてくれます。それでも最後はきっちり決めてくれてスッキリした読後感でした。三作目はスパイストーリーではなく仇討物語(?)ですが、敵の心理を利用することで敵わない相手に立ち向かうという爽快なストーリーでした。いずれもおもしろかったです。

 この設定での他シリーズもあるようです。読んでみたいと思いました。

エンタングルメント・マインド(Entanglement Mind)

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