読書感想文 『希望について』 わに万綺(著)
幽霊も同然に生きてきた俺は戯れに大学生になった。死体を海に捨てるバイトをしていた俺が真っ当に生きているなんてお笑いだ。適当に生きていた俺の前に、俺によって海に捨てられた死体だったという女が現れた。(短編『希望について』)
表題の短編と合わせて四篇の短編集。いずれも日常に潜む不思議を書いた短編です。
最初の短編『落ち葉あつめ』は、野良猫に落ち葉を与えているおじさんとそれを見ている少年のお話です。不思議が不思議のまま、どんでん返しもなく静かにストーリーが進んでいきますが、おじさんの話に興味をそそられてあっという間に読んでしまいました。
表題作の『希望について』は、非日常の世界(死体を捨てる)から日常(大学生)に転身した青年が、自分を偽りながら同じサークルの女と付き合うお話です。その女も自分を偽っていて、青年はそれをわかったうえで話を合わせているうちに、自分の偽りが本当に変わっていく、そういうことかなと読みました。こころの救済について考えさせられるものでした。
味わい深い短編集でした。
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