読書感想文 『スケアクロウズ・カフェ』 楠本泰二(著)
ルカはカフェに立っていた。俺の店だ。コーヒーを淹れる。しかし妙に静かだ。ここ数年続いている戦争が嘘のようだ。なじみの客が入ってきた。そういえば、このなじみ客は戦争で死んだと聞いたが……。短編『スケアクロウズ・カフェ』
表題の短編を含む四篇の短編集。
『スケアクロウズ・カフェ』の前半では、静かなカフェでのやりとりと戦争の悲惨な状況を対比させ、生き死にの理不尽さを浮かび上がらせています。さらに後半では、カフェを舞台に終わらない憎しみの連鎖を丁寧に描き出しています。いろいろと考えさせられるストーリーでした。
次の『ファミリーロボット』は、貧しい一家と家庭用ロボットのほのぼのとしたお話かなと思っていたら、後半から戦争が絡んできて殺伐とした雰囲気になっていきます。PTSDを治すには原因となった記憶を消し去ればいいわけですが、人間はコンピュータのように記憶を簡単にリセットできないんですよね。脳はリセットの代わりに忘却という機能を持っていますが、それはそれで時間が掛かります。
『メモリー・サルベージャー』はありがちではあるのですが設定がおもしろかったです。忘れ物がどこにあるか知りたいとか、生き別れの親を捜したいとかの依頼を解決するのに依頼人の記憶を辿るというストーリーです。ネタがたくさんあればシリーズ化できそうな設定だと思いました。
最後の『プリティ・ストレンジャー』は、四つの短編のなかでは一番長いお話です。小学生男子が仲間との関係性に悩むところに宇宙人?が絡んできます。人間はリセットできませんが、宇宙人ならリセットできてしまうので、結末は救われて良かったです。リセットで助かったリョウスケくんですがきっと反省していないな、と思いました(笑)。
いずれの短編も終盤に向かってネガティブ展開になっていきますが、最後にフワッとポジティブ側に切り替えてくれるので読後感は良かったです。おもしろかったです。
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