読書感想文 『幻影の湖』『続・幻影の湖』 辻井豊(著)
琵琶湖の湖面が奇妙に光る、という報告を受け、琵琶湖総合研究所の水神レイが調査に入った。彼が潜水艇で琵琶湖の湖底を調査していると、急激な乱流に巻き込まれてしまう。緊急浮上したそこは、元の琵琶湖ではなかった。水神は、潜水艇の操縦者 鏡浩一とともにサバイバルを始めるが……。
まず『幻影の湖』を読了したのですが、なぜ緊急浮上した先の世界が元と違っていたのか、という謎の回収がなく若干消化不良感があったので、続編の『続・幻影の湖』も読みました。続編のほうでその謎について言及がありましたので、これは連続して読んだほうがいいなと思います。
さて本作は琵琶湖を舞台にしたライトなSF短編です。水神と鏡は、誰もいない琵琶湖湖畔で一晩を過ごし、次の日になると、それまで原っぱだったところに家が出現していることに気が付きます。さらにいつの間にか街も出てきて……という現象に遭遇するのですが、このSF設定を読んで、自分は『世界5分前創造仮説』を思い浮かべました。この謎解きは『続』のほうにありますので、ぜひ。
ちなみに『世界5分前創造仮説』は、世界が5分前に誕生したとしても人間はそれを認識できない、という思考実験で、わたしは自著『思想物理学概論』で、夢の世界がそれに当たる、と解説し、夢を見ていることを自覚している明晰夢なら、『世界5分前想像仮設』を認識できる、と解きました。ご興味があれば、こちらもぜひ……(宣伝)。
本作を読んで最初に感じたのは、全くと言っていいほど比喩を排したこの文体をどこかで読んだことがある……でした。
ドアノブに手を掛ける。回す。引く。ドアは開いた。
という、まるで乾燥しきった砂漠をひとり歩くような、あるいは、音のない宇宙空間を浮遊しているような、そんな感じすらする文体の記憶。そこで読書履歴を遡ってみると、やはり過去にこの作者の本を読んでいました(『夜明け』)。そのときも同様な感想を書いていて、やっぱり独自の文体を持っている作者は記憶に残るなあ、と改めて思いました。
ライトなBL要素もありますが、特にBLの必然性があるわけではないので、BL苦手な人でもそう違和感なく読めるのではないかと思います。おもしろかったです。
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