三世留男

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読書感想文 『レオナルド・ダ・ヴィンチ考 (黒い変人に捧ぐ)』 降幡順治(著)

 レオナルド・ダ・ヴィンチの描いた世紀の傑作『最後の晩餐』には驚くべきメッセージが隠されていた! 作者は反転や重ね合わせを駆使してダ・ヴィンチの描いた絵画の謎を解き示す。 万能の人レオナルド・ダ・ヴィンチの描いた絵画には、彼のメッセージが数多く隠されている、と言われています。世界中でその謎解きが行われていて(『ダ・ヴィンチ・コード』もそう)、本書の作者もその一人といえるでしょう。作者が発見した事実の信憑性についてはわかりませんが、こういう謎解きは宝探しにも似てとても楽しいですね。読んでいてとてもワクワクしました。もしかしたらダ・ヴィンチは『最後の晩餐』に自分の知らないメッセージが隠されていると言われて草葉の陰で困惑しているのかもしれません(笑)。残念なのはせっかくの発見の考察があっさりしているところです。時代背景や人間関係などをもっと深く掘り下げた考察も読んでみたいと思いました。 ダ・ヴィンチの絵画だけではなく、例えば聖書にも予言が隠されているなど、過去の偉大な創作物には謎解きが付き物です。これはもしかしたら創作コンテンツを鑑賞する人が一方的に感じる情動に通じるものがあるのかもしれません。良質なコンテンツには作者の意図しない解釈や感動を鑑賞者に与えて人生に影響を及ぼすことがあります。そのとき創作コンテンツは作者の手を離れ、鑑賞者のためだけのコンテンツに変わるのでしょう。わたしもそういう本を書きたいなと思いました。

読書感想文 『ヂメンシノ事件』 二口 直土(著)

 満水ハウスのマンション事業部に海猫館売却という超大型案件が持ち込まれる。対抗はライバル・ヤマトハウス工業。買取契約にこぎつけるためには二週間以内に会社判断が必要だった。担当本部長の真中は、若干の違和感を感じつつも稟議に奔走する。 積〇ハウスが実際に騙された巨額詐欺事件とその後に起こった権力闘争をベースにした本格経済小説です。会社組織では従業員はミスをすることを前提にしていますので、人的エラーをミニマム化するマネジメントがなされます。今回の事件では稟議という決済システムがそれに当たり、多くの決裁者の目を通ることで詐欺や不正が入り込まないようになっています。しかしこの本の満水ハウスでは、稟議をきちんと回しているにも関わらず、見事に騙されます。どうやって地面師が満水ハウスに詐欺を仕掛けたのか? それはぜひ読んで考えてください。 前半から中盤にかけては満水ハウスがいかにして地面師に騙されていくのかを具体的に書き、後半は詐欺に引っ掛かった原因をガバナンスの問題とする会長と社長の権力闘争に移っていきます。取締役会での対決の場面は、読んでいて緊迫感がありました。 情景描写が抑制された文体で、積〇ハウスで起こった事実をベースにしているためもあって、まるでノンフィクションを読んでいるように感じました。物語の展開もスリリングでテンポも早いため、ゾクゾクとしながら読みました。たいへんおもしろかったです。

読書感想文 『サイレントサード』 八槻 翔(著)

 詐欺師のアメミヤレイジのところに凛々香という女が転がりこんできた。彼女は自分も詐欺師にしろと要求する。アメミヤはうざいなと思いながら彼女に応じているうちに情が移っていく。一方、世間では犬の首を落とすという猟奇事件が起こっていた。 主人公アメミヤは、脇が甘かったり、読みが浅かったり、感情的になったりで、詐欺師とは思えないくらい何度も窮地に陥ります。彼は決して二流ではない詐欺師なのですが、それでも彼の窮状を見ると詐欺師って割に合わない商売だなと思いました。ターゲットの信用を得るための経費(身だしなみやアジトや情報収集など)が結構掛かるわりに、実入りは少ないし、最悪の場合御用になる可能性もあります。それにもまして一番のデメリットは罪悪感に苛《さいな》まれることでしょう。アメミヤも罪悪感に動かされて破滅に向かって行ってしまいました。そういう意味でもアメミヤは一流ではなかった、のかもしれません。 中盤までアメミヤと凛々香のテンポの良い掛け合い、詐欺の手口と心理学的解説が楽しくて、これはもしかしてシリーズ化?と期待していたのですが、最後は何度もどんでん返しがあって、結局バッドエンドでした。あとがきで作者もこの作品は「嫌ミス」だと書かれているように救いのないラストでしたが、思ったより読後感は悪くなかったです。最後に全てきれいに謎解きされたからでしょうね。たいへんおもしろかったです。 黒幕が最後に殺しをやってしまうところが唯一残念で、そこは一流詐欺師として殺したように騙してほしかったなと思いました。

読書感想文 『スノー・グレイ 恐羅漢山大量殺人事件』 乙野二郎(著)

 吹雪の晴れた恐羅漢山の山荘に着陸したヘリ。山岳救助の隊員が山荘で見たのは、惨劇の跡だった。生存者一人(北山徹)を救助した後、山の天候が急変する。結局雪崩によって山荘は流され、同時に現場も消えてしまった。証拠が極端に少ないなか、北山の刑事裁判が始まる。 吹雪に閉ざされた雪山の山荘というミステリでは常道のクローズドサークルものです。ただ名探偵が犯人を追い詰めて解決するわけではありません。この本は、犯人と目される生存者(北山)を状況証拠だけで裁判にかけるという法廷ものです。誰が犯人なのか、真相は何なのか、それは読者の想像に委ねられる形ですので、読後はモヤッとしました。ですが、これが現実の法廷なのでしょうね。裁判官や裁判員はこういう限られた情報で有罪・無罪を判断しないといけないんだと想像すると、これは苦しいなと思いました。合わせて、普段何気なく見ている新聞やテレビの報道、ネットの論調などは、当事者ではない無責任な情報なのだなと新ためて感じました。 あまり読んだことのない構成で目新しく、ストーリーもおもしろかったです。ちなみにはわたしは無罪にしました(笑)。 ロケーション1680付近の被告人の言葉で「なにか物音がしなかったみたいことを」となっていましたが、これは「~みたいなこと~」なのではいかと。細かくてすみません。

読書感想文 『駆け出しミステリー作家とマリッジブルー狂詩曲』 和泉 綾透(著)

 今回殺される役の人は、学校には必ずあって、学生の憩いの場になっていることが多く、創作においてはボーイミーツガールの舞台になったりあまつさえラブホテルの代わりに使われることもある例の場所に勤める人だ。簡単に言うと保健室の先生である。保健室の先生と聞いて、いたずらされる僕、を思い起こす諸賢はアダルトのあれこれを見すぎなのでむしろ病院に行ってむさい医師に性根を叩き直してもらったほうがいい。さて――殺される役の人は中越先生といって、そのイメージは学生から見たら大人の女というよりお母さんといったほうがすっきりする。むろん外見も含めて、である。そんな彼女がなぜ殺されなければならないのか、それを考えて――ここポイントで理由は事実でなくても、事実でないほうがいいのだけど――ミステリに仕上げるのが僕のミッションだ。シリーズ第8弾! 紹介文をこの本の文章を真似て書いてみましたが、むずかしいですね。実際はもっとウィットに富んでいてテンポが良くてキレがあり、それでいて自然な語り口ですが、こんな感じの文が最初から最後までずっと続くんです。 さて今回は中越先生という大学の養護教諭が殺される役になります。中越先生と交通事故で半身不随になった彼女の恋人との関係性と心情をミステリを舞台にあぶり出していくのが本筋。サイドストーリーが例の「チーム都並」――おかしな面々――のコメディ劇です。本筋はなにかいい話だったような気がするのですが、「チーム都並」のキャラクターが濃くて、記憶に残りませんでした(笑)。今回もおもしろかったです。

読書感想文 『レイライン: 千三百年間の謎 失われた秘剣』 榊正志(著)

 殺された高名な考古学者 桜井康造の娘 哲子は中国の老研究者のもとに招かれ、北朝鮮内で衝撃的な内容が書かれた石碑が発掘されたことを知る。石碑には、白村江の戦い(663年)で敗れた日本の戦後賠償について記されていた。現代中国は日本に戦後賠償を迫るため、証拠が刻まれたとされる天叢雲剣の行方を追い始める。康造の遺した手帳に剣の隠し場所が書かれていることを知った中国は、持ち主の哲子と彼女を守る警察官 進藤に襲い掛かる! 『ダ・ヴィンチ・コード』(ダン・ブラウン著)を彷彿とさせる考古学ミステリの長編です。発見された石碑が端緒となり、戦時中の日本と中国共産党が結んだ密約を根拠に、中国と北朝鮮が日本に白村江の戦いの戦後賠償(領土の割譲)を迫ります。小説の中とはいえ領土問題というセンシティブな内容で、しかも日本の存亡にも関わるので、もう気を揉みながら読みました。他人事ではないって、こういうことなんですね。 序盤は国境をまたいで繰り広げられるハードアクションでハラハラドキドキさせて、中盤からは日本と中国の命を賭けた天叢雲剣の探索競争になります。キーワードはレイラインです。寺院や歴史的遺物などが地図上で意味を持つ並びになる仮説をレイラインと呼びますが、日本におけるレイラインを日本書紀や当時の天皇、人々の心情をヒントに意味付けして天叢雲剣の隠し場所を特定していく過程は知的好奇心を大いに刺激してくれました。作者は古代について相当博識だなと感じ入りました。 レイラインは考古学では主流の考え方ではないのですが、わたしは肯定的に捉えています。大地に直線を引くように要所に寺社などを建てる、などは科学技術が発達した現代ではごく簡単なことでしょう。そんな現代から徒手空拳の古代を見たときに、現代と同じことができるはずがないから偶然だ、というように考えることは現代人の傲慢ではないかとわたしは思うのです。科学技術はなくても、古代人にも知恵と時間と人手は等しくあるわけです。そもそも人間の知能は古代から現代で変わっていないのですから。 読んで知的欲求が満たされた気がします。おもしろかったです。 文章は少しぎこちなさが残っていて、わたしの読むリズムと合わなくて、なかなか読み進められなかったです。あと後半で若干スピリチュアル系の現象によって謎解きが進むところがありました。わたし個人的な好みですが、最後まで論理的に謎解きしてほしかったなと思いました。

エピソード1,2,4を改訂!!

 表題の通り、POD本出版に合わせ中身を全ページ読み直して改訂しました。内容は変わりませんが表現を全面的に見直したので第2版としました。各エピソードとも100ヶ所以上変更したと思います。 で、アマゾン様に初版をお持ちの読者様に配信したいと問い合わせたところ、配信の対象外との判断がされました……。 ちなみに、「読書体験を損なうおそれのある品質上の問題を解消する目的で修正が加えられた場合にのみ、本の既購入様へ修正版を配信」しているそうです。 初版は文章があまりに下手なので、自分的には読書体験を損なうんじゃないか、と危惧していたのですが、仕方ありません。 アマゾン様からのメールには、読者様が修正版を受け取る方法を記してありましたのでここに転載しておきます。<購入者の方のお問合せ方法>1. https://www.amazon.co.jp/gp/help/customer/contact-usより、Amazon.co.jpの購入アカウントへログイン2.「1. お問い合わせの種類を選択してください」において、「デジタルサービス」を選択します。3.「2. お問い合わせの内容を選択してください」で「Kindle本について」を選択します。4.「詳細内容」において「その他」を選択し、お問い合わせ内容を入力します。5.「3. お問い合わせ方法を選択してください」でご希望のお問い合わせ方法をクリックし、お問い合わせを開始します。 初版をお持ちの方は、上記問い合わせでぜひ第2版にアップデートしてください!! わたしの端末も全部初版だったので再配信をやってみました。チャットで5分くらいでできてしまいました。簡単ですので、ぜひみなさんもアップロードお願いします!↓↓↓↓↓こんな感じです。↓↓↓↓↓↓↓お問い合わせ内容: 下記書籍の修正版をダウンロードしたいです。『存在確率マイナス1』(ASIN: B074T1KH34)『人工知能が目覚めるとき』(ASIN: B076HVYTMK)『不気味の崖を超える』(ASIN: B077YRNK87)ーーーーチャット開始----○○(Amazon): お問い合わせいただきありがとうございます。Amazonカスタマーサービスの〇〇でございます。よろしくお願いいたします。確認いたしますので少々お待ちください○○: 恐れ入りますが、Kindle本の更新の際、いくつかの注釈、ハイライト、ブックマークが削除されています。ご了承くださいわたし: 問題ありません。○○: 承知いたしました更新手続きを行いますので少々お待ちください○○: お待たせいたしました○○: 『存在確率マイナス1』(ASIN: B074T1KH34) 『不気味の崖を超える』(ASIN: B077YRNK87)につきまして三世様の端末に最新バージョンを配信いたしました。最新バージョンのKindle本をダウンロードするには、端末が充分に充電されていること、インターネットに接続されていることを確認し、端末を同期させてください。前のバージョンのKindle本は、自動的に最新バージョンに差し替わります。また、『人工知能が目覚めるとき』(ASIN: B076HVYTMK)につきまして確認したところ、コンテンツの更新データがないことがわかりました。わたし: ありがとうございました○○: いえいえ とんでもないでございます○○: その他ご不明な点などはございませんでしょうか?わたし: 確認します。ありがとうございました。終了いたします。○○: 当サイトは24時間年中無休で対応しておりますので、その他ご不明な点がございましたらいつでもご相談ください。 それでは、その他ご不明点がなければ、ウィンドウ右上の「チャットを終了」からチャットを閉じてください。なお、チャット終了後、簡単なアンケートが表示されますので、ご確認いただければと思います。Amazon.co.jpをご利用いただき、ありがとうございました。

読書感想文 『フェティシズム教育学会』 東区あかり(著)

 29歳、趣味無し彼氏無し、いるのはテクニックゼロのセックスフレンドだけ。リコは半ばやけくそで、ネット検索で見つけた『フェティシズム教育学会』の門を叩く。 フェティシズムとは物や行為、生き物などに異常なこだわりを示し、かつ性的興奮を覚える心理状態のことを言います。誰しも大なり小なり隠れているのではないでしょうか。この本は、そういったフェティシズムを開発する教育学会に入会した女性が、あるものに対する性癖に開花するお話です。あるもの、はぜひ読んで確認してください。全く意外なものですが、それを使ったプレイを丁寧に描写していますので、なんだかわたしも興奮しそうでした。ちなみにわたしは官能小説に最も興奮する質《たち》だと思っています。わたしもエロ描写にもっと萌えるように『フェティシズム教育学会』で開発してほしいです(笑)。 文章はリコの一人称で、彼女が感じていることを赤裸々に語りますが、文体は素直で癖がなく読み易かったです。ラストはハッピーな形で終わるので読後感も良かったです。 フェティシズムが開花すれば性器に触れずしてオーガズムに達することができる……のかもしれません。わたしとしては、同じようなことが明晰夢でも起こることをここで紹介しないわけにはいかないでしょう。 また、明晰夢は性的活動にも大きな影響を与えることがわかっている。特に女性は、明晰夢によって現実世界よりも素晴らしく感動的なエクスタシーに至ると言われている。臨床心理学博士パトリシア・ガーフィールドは『エクスタシーへの道』の中で、自身の明晰夢の3分の2は性的な内容であり、その半数でオーガズムに達すると報告している。そのオーガズムは深く強烈なものであり、「魂と肉体を揺さぶる爆発が突如起こっている」のがわかったという。そして、この感動的な体験はスティーヴン・ラバージの研究によって実証されたのである。(『思想物理学概論』より引用) どうやらわたしたちは脳で感じるようですね。フェティシズムも脳が気持ち良いと感じているから絶頂に至るのでしょう。

読書感想文 『君は壁新聞を読んだか?』 九阿弥号純(著)

 クリスマスの前々日、僕(東間)は街を歩いていた。曇り空から小雨が落ちはじめ、すぐに雪に変わった。いつもと変わらないクリスマスの光景。そこに突如、軍用ヘリコプターの爆音が周囲を覆った。ヘリがばらまいたビラには「日本は占領されました……」との文章。その瞬間から僕たちに日常は永遠に戻ってこなかったのだ。 東間という青年が亡命に至る体験を手記という形で綴った革命物語。日本がソ連と朝鮮の連合軍に侵攻され東日本と西日本に分割統治されるという我々日本人にはなかなかショッキングな設定になっています。前半は占領下での統制された平穏、中盤からきな臭くなってきて、後半は怒涛の亡命と革命劇と盛り上がります。占領下という状況は普通体験することができないのですが、この本では抑圧の臨場感と傍観的な心情を良く表していて、実際にこうなるのかなと想像しました。 手記という体裁を崩すことなく最後まで書き切っているのは素直にすごいなと思いました。結局わからないことも多く残る(手記なので主人公のあずかり知らないところはわからない)のですが、結果的に平行世界のリアリティを存分に感じさせてくれました。手記であるからこそ、その後に起こる悲劇や出来事などを予感させる書き方ができ、ページをめくらせる力になっていたと読んでいて感じました。 文章は横書きです。わたしは小説は縦書きでないと読めないタイプなのですが、本作は不思議とすんなり読めました。一文が短めだからかしら? 横書きは縦書きに比べ折り返しが短いので、縦書きと同じくらい一文が長いと目が滑る気がします。 タイトルの「壁新聞」はあまり出番がありませんでした。もう少しギミックとして使ってほしかったかな。 ソ連、朝鮮、イスラエルなど、地政学的に少々センシティブな話題も扱っており、商業ではなかなか出せない内容ではないかと思います。手記という実験的体裁といい、セルパブならではの本です。おもしろかったです。 Amazon内容紹介にはかなりのネタバレが含まれていますので、本を読む前には見ないことをお勧めします(笑)

読書感想文 『執事と三人の刺客 』 口冊司(著)

 日本三大仇討ちの一つ、曽我兄弟の仇討ちの裏には鎌倉幕府内の苛烈な権力闘争があった。曽我兄弟も工藤祐経もその争いに巻き込まれたのだ。政所別当の中原(後の大江)広元は、その謎の究明に乗り出す。 冒頭、織田信長の代名詞である「天下布武」の解説から始まるところは、司馬遼太郎の本を彷彿とさせます。そして時代は鎌倉時代へ。幕末や戦国時代に比べてややマイナーな感のある鎌倉時代ですが、室町、江戸と続く武家政権(幕府)の基礎となった時代と説明されると俄然興味が湧いてきます。その仕組みを作り上げた中心人物が本作の主人公 大江広元です。わたしは名前しか思い出せませんでしたが、元々彼は大和朝廷の下級役人(作中はもっと重要な役回り)で鎌倉に下り源頼朝に重用され政所の別当(今でいう官僚のトップ)になった人物です。その彼が、曽我兄弟の仇討ちに注目します。因縁は十数年前の土地横領が発端なのですが、実はそのはるか以前から仕組まれていた! というのがわかってきます。さらに事件の背後には超重要人物の暗殺すらもあったのです、ときます。もちろんフィクションなのですが、ifではなく、歴史に隠された謎という形で物語が進むのでとても興味をそそります。 この本は歴史小説ですので登場する人物、モノ、言葉は時代考証されているのですが、それほど厳密でもありません。現代の言葉で説明しているところもあり、読みやすく親しみやすい文章になっています。これは敢えてそうしているんでしょうね。 歴史物(しかも史実ベース)でありながら、きちんとミステリ構成になっているのが新しいです。広元が探偵役で、それ以外の有名人(比企尼や北条政子など)が全員容疑者という配役のミステリです。史実をベースにしているため謎解きが若干苦しいところもいくつかありました(例えば足立盛長が天寿を全うできた理由とか)が、飄々《ひょうひょう》として凄みを全く感じさせない広元が、調査と聴取と推理で容疑者を追い詰めていくところはとても爽快でした。たいへんおもしろかったです。